vol.2 動き付けとゲーム [6/28]

初日の10日くらい前になると、いつもの稽古場を離れて広い稽古場に移動します。そこで三日間は「動き付け」という作業をします。稽古場の床にビニールテープで本当の舞台セットの位置を書いて(NODAMAPなんかだと実際に本物のセットを組みますが…)、そこで役者の動き(ミザンスと言ったりします)を1シーンづつ細かく決めていくのです。

それまでは役者の好きなように動いているので、見にくい所があったり、意味のない移動や動きをしているのです(主に西川や真柴)。それを演出家が整理してくれるのです。これが役者にとっても意外に大事な作業なのです。

役者は台本を読んで、「この台詞はこういう感情だから相手に近づきたいな」とか「ここは怒っているから背を向けよう」などど考えるわけです。それを実際の稽古の時にやってみせるのですが、役者には自分自身の姿が見えてはいないので、自分が計画した演技(または動き)が見ている方からすると「そうは見えない」ということが起こるのです。

これが演技者と観客のギャップです。

これは台詞を言う場合にも同じように起きることです。「私は悲しんでいるつもり」でも「お客さんにはただ元気がないにように聞こえる」時があるのです。役者の動きの場合、一人で舞台に立っているのならともかく、二人以上、多い時は10人以上の役者が同時に舞台に出ている場面だってあるのですから交通整理が必要になってきます。

「カレッジ〜」ではほしみの家族が出ている場面の動きをつけるのが大変でした。一か所にかたまってしまったり、全員が横一列になってしまったり、右側通行なんてルールはないのですから事故の連続です。ベテランになると3つ4つ先の動きまで考えて移動するのでスムーズに運ぶのですが、舞台経験の少ない新人にはなかなか安全運転は難しいようです。

今回「ヨウタ役」の藤岡宏美は今年の春にデビューしたばかりなので、「カレッジ〜」が二本目の出演です。案の定、他の人の後ろで台詞を言ったりしてしまうので、演出家から「そんな所でしゃべるなっ!!」と怒られてしまいました。傍から見ていると、簡単そうに見えるのですが、台詞をしゃべりながら動くというのはなかなか大変なことなのです。

身体訓練の後にゲームをやることがあります。今回の公演で演出助手を担当している石川寛美さんが教えてくれた「椅子取りゲーム」は「動き」を意識するのにとても役立つ物でした。

石川さんがロイヤル・シェークスピア・カンパニー(RSC)のワークショップでやったものなのだそうですが、まず稽古場に人数分の椅子(または人が座れる箱など)を用意します。そこに全員が座り「オニ」を決めます。「オニ」は自分が座っていた所から一番遠くまで行き、そこから自分の椅子に向かって歩いていくのです。但し、その際両ひざをくっつけて歩かないなければなりません。こうすると「オニ」は内股状態になり、とてもゆっくりにしか歩くことができません。

さて、「オニ」以外の人たちが何をするかというと、「オニ」が自分の椅子に座るのを阻止するのです。例えばAさんが「オニ」の椅子に移動してしまったら、「オニ」は今度はAさんの椅子を目指さなければならないのです。ちょこちょこ歩いていく「オニ」の後ろからそっと近づいて椅子の座った時は大変愉快になりますし、「オニ」が悔しがること請け合いです。

実は、このゲームは「オニ」以外の人の訓練になっているのです。「オニ」以外の人に与えられるルールは、「同時に二人以上の人が立ち上がってはいけない」ことです。いっぺんに何人もの人が移動してしまうと「オニ」が目指す場所が分からなくなってしまうからです。更に、一度立ち上がってしまったら、元の椅子に戻って座ってはいけません。やってみると分かりますが、これがなかなか難しいのです。誰が座るかとお互いに牽制しているうちに「オニ」が椅子の近くにいってしまい、慌てて3、4人がどっと立ち上がってしまうことも度々です。

このゲームは、自分が動くためには回りをよく見ることが大切だと教えてくれます。「オニ」が座る邪魔をするためには、全員が協力して立ち上がるタイミングを計らなければなりません。サッカーの中田英寿選手が試合中に首をきょろきょろ動かして回りを見るように、自分以外の人の動きに注目することが必要です。「オニ」以外の人は、立ち上がる前に手を上げて「私が立ちます」という意志表示をしてみるとより分かりやすくなるでしょう。

このゲームはある程度広い場所でないと、なかなか上手に出来ないかもしれません。小さなスペースでは「オニ」があっと言う間に目的の椅子に到達してしまいますからね。